乳腺疾患
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乳腺疾患
乳腺疾患には大きく分けると良性疾患と悪性疾患があります。悪性腫瘍の代表は乳癌であり、良性疾患には乳腺症、乳腺線維腺腫や乳腺症などがあります。また、葉状腫瘍などは病理検査にて腫瘍細胞の異型性から、良性から悪性まで診断さます。
本ホームページでは、乳腺について概要を解説しますので参考にしていただければ幸いです。
解剖・生理
乳房は主に、組織を形づくるじん帯と脂肪、それらに守られた乳腺葉、乳頭へつながる乳管の4つの部分から構成されています。腺房という組織が乳管でつながれてまとまったものが乳腺小葉、乳腺小葉が乳管でつながれて集まったものが乳腺葉です。
乳腺葉は乳頭を中心に放射線状に15~20配置されています。イメージとしては、乳頭からつながる乳管を軸に、ぶどうの房状につながっているのが乳腺葉で、ぶどうの房全体が乳腺葉、ぶどうの粒が乳腺小葉です。出産に合わせて、プロラクチンとオキシトシンにより乳汁分泌は刺激され、乳腺小葉で産生された乳汁(母乳)が、乳管を通って乳頭から外へ出ます。
一般に乳腺は エストロゲン の作用によって増殖し、 プロゲステロンの作用によって発達します。 思春期以降による 女性の第二次性徴によって、 卵巣が発達し、 女性ホルモンとも言われる エストロゲンとプロゲステロンの分泌増加が起こり、乳腺が発達します。一方閉経後は、卵巣機能が低下し、エストロゲンやプロゲステロンが低下します。このような環境変化について理解することが重要です。
良性疾患
腺疾患の中で頻度の高い疾患。性成熟期に多く認められる非腫瘍性、非炎症性の増殖性病変。硬結や腫瘤として触知し、乳房痛や乳頭分泌異常をともなうこともある。
乳腺良性腫瘍の中で最も頻度が高い。20-30歳代に多く、周囲との境界が明瞭な硬い腫瘤を形成する。上皮成分と間質成分が腫瘍性に増殖する病変である。癌との鑑別は比較でき容易であり、腺腫内に癌が発生することは極めて稀である。
線維腺腫と同様に上皮成分と間質成分がともに腫瘍性増殖を示す混合腫瘍である。急速に増大する場合がある。また、間質成分が悪性を示す場合ああり、葉状腫瘍の分類は1)良性、2)境界病変、3)悪性 に亜分類される。
代表的な良性失陥であり、30-50歳代に好発する。乳管内に発生する乳頭状腫瘍であり、血性乳頭分泌を主訴に診断されることが多い。乳管内乳頭腫は良性の経過をたどり、悪性化することは極めてまれである。乳管内乳頭腫の近傍に癌組織が存在する場合がありうるので、フォローアップは必要です。
悪性疾患
乳癌:乳がんは乳腺の組織にできるがんで、多くは乳管から発生しますが、一部は小葉から発生します。
乳がんの主な症状、注意すべき症状は、乳房のしこりです。自分で乳房を触ることで気付く場合があります。ほかには、乳房にくぼみができる、乳頭や乳輪がただれ治りがわるい、左右の乳房の形が非対照になる、乳頭から分泌物が出る、脇にしこりがある、などがあります。
乳癌のしこりの特徴は、①硬い、②表面が凹凸である、③周囲との境界がわかりにくい、④しこりの動きが悪い などです。しこりなどの異常を自覚すると、乳癌だといわれるのが怖いから、医療機関を受診しない方がおられます。癌細胞は日に日に増殖を繰り返し、腫瘍は大きくなります。何らかの異常を自覚したら、躊躇せず、なるべく早めに医療機関を受診することが重要です。
国立がんセンター、癌情報サービスの最新統計によると、2019年の乳癌罹患数は97812名、2020年の乳癌死亡数は14779名です。乳癌患者の5年生存率は全体では92.1%です。病期別ではStage I 100%、Stage II 95.9%と早期発見、早期診断により、早期治療を行うことにより良好な治療経過を得ることができます。Stage IIIでも80.4%です。他の癌腫よりも良好な5年生存率です。一方、Stage IVでは38.8%と予後は悪くなります。
早期発見、早期診断が有効であり、治療が有効な癌であると言えます。乳癌検診は統計学的に乳癌死亡率減少効果が証明されてます。是非、乳癌検診を活用しましょう。
検診について
練馬区の乳癌検診
各種検査
マンモグラフィ(MG)は、2000年の厚労省通達後、乳がん検診の中心的役割を担っている検査です。マンモグラフィ精度管理中央委員会がMG読影、撮影技術講習会を開催し、当院の医師、技師は参加・認定を受け、診療や検査を行っています。乳房専用のX線検査であり、病変の位置や広がりを調べるために行います。乳腺の重なりを少なくするために、2枚の板の間に乳房を挟んで圧迫し、頭尾方向(CC)および内外斜位方向(MKO)から、乳房を薄く伸ばして撮影します。
乳房内の病変の有無、しこりの性状や大きさ、わきの下など周囲のリンパ節への転移の有無を調べるために行われる検査です。超音波を発生する超音波プローブ(探触子)を乳房の表面にあてて、超音波の反射の様子を画像で確認します。患者さんは、仰向けに横たわっていただき、乳房にゼリーを塗り、プローブというセンサーをあてて検査します。モニターに乳房内部の画像を映しだすため、、痛みや放射線被爆の心配はありません。超音波で写し出された腫瘍の形、周囲の形態(周辺)などが不規則かどうかで、乳がんである可能性を詳細に検討します。また、腫瘍内部の構造が充実性(中身がつまっている)か、のう胞(乳管の一部が拡張して内容液が溜まったもの)であるかを区別できます。良性疾患との鑑別にも有効です。
磁気を使った検査で、マンモグラフィや超音波検査では分からない小さな病変や広がりを、手術前に確認します。
病変の一部を採取し、顕微鏡で調べ、確定診断を行う検査です。組織診では通常、局所麻酔をして注射針より少し太い針を使って組織を取る「針生検」が行われます。手術で組織を取る「外科的生検」が行われる場合もあります。
治療法
乳癌の治療の選択は、基本的には標準治療(乳癌診療ガイドライン2022年 治療編)に従って行います。高齢者や病状、全身状態、併存疾患などにより、個別化治療が必要な場合があります。病気・病状について詳しく説明を聞き、治療方針、治療法法について納得してから治療をうけましょう。
それぞれの治療について概要を説明します。
乳房部分切除術(乳房温存術)
乳房の一部を切除する手術方法で、がんから1~2cm離れた周囲を含めて切除します。がんを確実に切除し、乳房を残すことができます。通常、手術後に放射線照射を行い、残した乳房の再発を防ぎます。実際の手術では、切除した断面のがん細胞の有無を迅速病理診断にて確認します。当院では常勤の病理医が判定します。
乳房全切除術
乳房をすべて切除する手術方法です。広範囲に広がった乳がんや、乳房内に複数のがんがある場合に行います。
腋窩リンパ節郭清
画像検査やセンチネルリンパ節生検で腋窩リンパ節に転移が認められる場合、腋窩リンパ節を切除します。リンパ節の転移の有無は病期に影響します。
内分泌療法
ホルモン受容体が陽性の乳がんに対して、ホルモンの分泌や働きを阻害することで癌細胞の増殖を抑制する目的で使用します。、ホルモンを利用して増殖するタイプの乳癌に治療します。閉経前と閉経後では、体内でエストロゲンが作られる経路が異なるので、それに合った薬を選択します。閉経前では、LH-RHアゴニスト製剤や抗エストロゲン薬を、閉経後では、アロマターゼ阻害薬もしくは抗エストロゲン薬を使用します。
化学療法
アントラサイクリン系抗がん剤、タキサン系抗がん剤、シクロホスファミド、フルオロウラシル、エリブリン、など多数あり、がん細胞の成長を阻害したり、分裂を抑制します。全身に投与するため治療効果とともに、副作用もしられています。脱毛、悪心嘔吐など様々な副症状があり対策が必要となります。
分子標的薬
がん細胞の特定の分子やシグナル経路に直接作用し、がんの成長や転移を抑制します。Her2陽性乳癌に対するトラスツズマブ(ハーゼプチン)やEGFRとHER2の二種類の受容体型チロシンキナーぜ阻害薬であるラパチニブ(タイケルブ)、血管新生阻害剤(ベバシズマブ)などがあります。
乳房温存術の残存乳腺に対して再発を予防する目的で放射線治療を行います。補助療法の一つです。また、腫瘍部の局所や腋窩リンパ節領域に、照射する場合があります。がん細胞を破壊し、再発や転移を抑制する効果があります。
放射線治療の副作用には皮膚の赤み や痛み、疲労感などがあります。
骨転移などの局所コントロールや痛みの緩和にも放射線治療が行われます。
最近の動向
ブレスト・アウェアネス:『乳房を意識する生活習慣』が重要です。女性が乳房の状態に日頃から関心をもち、以下のポイントを実行しましょう
- 自分の乳房の状態をしる
- 乳房の変化に気をつける
- 変化に気づいたらすぐに医師に相談する
- 40歳になったら2年に一回乳癌検診をうける