婦人科腹腔鏡手術のご案内
進行した病状(病巣が大きい、病巣が深い、範囲が広い、多臓器への癒着が強い)に対しても腹腔鏡で手術が安全に行えるかは施設によって異なります。当院ではほとんどの婦人科良性疾患に対して腹腔鏡手術を実施することが可能です。
日本産婦人科内視鏡学会、日本内視鏡外科学会による審査で技術認定された、日本でもトップクラスの技術を誇る医師により、質の高い手術を提供しております。
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また、通常の腹腔鏡下手術より小さな傷での治療(細径鉗子を用いた腹腔鏡下手術)を積極的に行なっています。これにより術後の傷のトラブルが少ない、術後疼痛が軽減される、回復が早く早期退院や社会復帰が可能、などのメリットが期待できます。
当科での腹腔鏡適応疾患
当科ではほとんどの婦人科良性疾患に対し腹腔鏡手術を適応することが可能です。
- 子宮筋腫
子宮を温存することを希望される場合は腹腔鏡下子宮筋腫核出術(子宮筋腫のみを摘出し、子宮を温存する手術)、根治術を希望される場合は腹腔鏡下子宮全摘術を施行します。大きさや個数での制限は当院では特にありませんが、腹腔鏡手術が可能かどうかは外来担当医にご相談ください。一般に子宮筋腫核出術のほうが子宮全摘術に比較し手術時間の延長、術中出血量の増加、術後再出血のリスクの上昇が認められます。病気の根治性、合併症リスクを十分理解したうえでどちらの手術を選択されるか決定してください。
- 卵巣腫瘍
腫瘍の性状、年齢などにより、腫瘍のみ切除(卵巣嚢腫摘出術)の場合もあれば、卵巣、卵管ごとすべて切除する(付属器切除)の場合もあります。どちらの術式が自分の状態にふさわしいかは外来担当医にお聞きください。
- 子宮内膜症
子宮内膜症は若い女性に多く認められ、月経痛、性交時痛、慢性骨盤痛、不妊症などの原因となります。子宮内膜症では多くの場合子宮周囲に癒着(直腸や尿管、膀胱などが子宮や卵巣にくっつくこと)が認められ、手術が非常に困難になります。当院ではそのような重症の子宮内膜症の患者さんに対しても積極的に腹腔鏡手術を施行し、癒着剥離など難易度の高い手術を腹腔鏡で行うことが可能です。
- 骨盤臓器脱
子宮、膀胱、直腸などが下垂してくる疾患です。当院ではこのような疾患に対してもメッシュを用いた腹腔鏡手術を行うことが可能です。
まずは自分の病気が手術が必要かどうか、また腹腔鏡手術ができるかどうかなど何でも外来担当医にお尋ねください。
病状を十分に評価して、様々な選択肢と、ご本人に最も適切な治療法を提案いたします。
腹腔鏡について
腹腔鏡は数ある内視鏡(小型カメラ)のうちの1つです。内視鏡をお腹(腹腔)に入れるため、「腹腔鏡」と名付けられています。
体のどの部位に入れるかによって、内視鏡の名前が変わります。胸に入れて、肺の手術をする場合は「胸腔鏡(きょうくうきょう)下手術」、膝の関節などで手術するときは「関節鏡(かんせつきょう)下手術」という名前になります。
腹腔鏡手術の実際
当院では、まず、へその底の部分を5mm切開し、その部分に腹腔鏡のカメラを入れて、おなかの中を確認します。続いて下腹部に2mmから5mmの切開を1〜3か所加え、操作鉗子を入れて手術を行います。
通常、手術はその4か所以下の小切開で行うことが可能です。手術終了時は、切開した部分を縫いますが、最大の傷であるカメラの挿入孔はへその底の部分であるため、術後の傷あとはほとんど目立ちません。
当院の産婦人科では2021年、356件の腹腔鏡下手術を実施してきました。
入退院については、通常、手術日の前日に入院し、術後4日後に退院となります。
卵巣や卵管の手術の場合は術後2日後や3日後に退院できることもあります。
症例によりますが日帰りの腹腔鏡下手術の対応もあります。詳しくは担当医師にお尋ねください。
腹腔鏡手術のメリット・デメリット
一般的に腹腔鏡手術のメリットとして挙げられる点は以下の通りです。
- 傷が小さく美容面で優れている。
- 痛みが少なく患者さんの負担が少ない。
一方、デメリットとして挙げられる点は以下の通りです。
- いろいろな手術器具が必要で開腹手術より難しい。
- 開腹手術より合併症が多い。
腹腔鏡手術は開腹手術に比較し傷は小さく、美容面に優れるといった利点をもつ一方で、触覚の消失、深部感覚の消失など特殊な環境下で行う手術であるため技術的に難しく、合併症も開腹手術に比較しておこりやすい傾向にあります。
にもかかわらず当院で腹腔鏡手術を行う理由は以下の点にあります。
我々が扱う婦人科疾患は骨盤の深い位置にある臓器を対象にしています。つまり手術を行うにあたり見えにくく、手が届きにくいといった状況に陥ることが少なくありません。当然のことながら、見えない状況、手が届かない状況で盲目的に操作を行うと、大出血を起こしたり、予期しない合併症を引き起こしたりします。
腹腔鏡手術では細長いスコープを用いるため、骨盤深部も近接することが可能となり、モニターを通じ拡大された骨盤深部を鮮明な画像で見ることができます。その上、さまざまな形状の細い鉗子を手の代わりに用いることから、実際の手の操作では行いにくい非常に細かい操作を行うことが可能となります。
また、腹腔鏡手術はおなかを開く必要がないことから腸管が外気にさらされることがなく、術後癒着は皆無で腸閉塞などの術後合併症が発生する率が低いとされています。
担当医師
常勤医師
田中誠治(たなか せいじ)(常勤)
【資格】
日本産科婦人科学会専門医、日本婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医
白根晃(しらね あきら)(常勤)
【資格】
日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科学会指導医、日本婦人科内視鏡学会技術認定医、日本生殖医学会専門医、2019 AAGL(全米婦人科内視鏡学会) 縫合結紮セミナー座長、国内外でのセミナーの講師多数歴任、米国の権威ある腹腔鏡手術の教科書に寄稿し出版予定
非常勤医師
金尾祐之(かなお ひろゆき)(非常勤、がん研有明病院婦人科副部長)
現在まで婦人科の良性・悪性疾患に対し約2,500例の内視鏡手術を施行
【資格】
日本産科婦人科学会専門医、日本婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医、婦人科内視鏡学会幹事・評議員、婦人科腫瘍専門医、その他
【受賞歴】
・Honorable mention(2nd place) in video session at 14th SLS annual meeting
(2005 年サンディエゴで行われた国際ラパロスコピー外科学会にて学会賞受賞)
・第48回日本産科婦人科内視鏡学会 学会賞(ビデオ部門)
・Best award in gynecologic oncology at 40th AAGL (2011 年フロリダで行われた米国婦人科内視鏡学会(婦人科内視鏡関連の国際学会の中では最大規模の学会)で学会賞受賞)
・第53回日本産科婦人科内視鏡学会 学会賞(ビデオ部門)
・第54回日本産科婦人科内視鏡学会 学会賞(論文部門)
・2014-2015年度 ベストドクターズJapanに選出
【メディア掲載】 ※記事の画像をクリックすると別ウインドウで拡大表示されます
・効くNews 早期子宮体がんの腹腔鏡手術が保険適用に 日経ヘルス2015.5, 106p
・本当に手術が巧いがん外科医リスト 週刊文春2015.8.13-20合併号, 187p
・凄腕の医療人 婦人科悪性腫瘍 腹腔鏡下手術で根治を目指す がんサポート2015.10, 10-14p