骨盤臓器脱について
骨盤臓器脱とは、子宮、膀胱、直腸など骨盤内の臓器を支える組織が緩み、それらが腟から脱出する病気の総称です。原因は出産、加齢、重労働、肥満、遺伝などがあります。
主な症状は、股間に何かはさまった感じがする、ピンポン球のようなもの腟から出てきて擦れて痛い、何かが下がってきたようで下腹部に違和感があるなどです。また、膀胱が下がることで尿が近い、出にくいといった症状や、直腸が下がることで便が出にくいという症状がでることがあります。
治療は重症度により異なりますが、1)体操、ダイエットなどの生活指導、2)漢方薬内服、3)腟内にリングを挿入し、下がった臓器を押し上げるペッサリー治療、4)手術療法等があります。
※患者さんの病状や生活のスタイル、今後の人生設計に合わせた治療を提案します。詳細は当院産婦人科医師にお尋ねください。
手術療法について
以前は脱出する臓器や損傷した骨盤支持組織に応じて、腟式子宮全摘術や腟式メッシュ固定術、腟閉鎖術、開腹による仙骨腟固定術など多様な術式が選択されてきました。
近年、適応が広い(=様々な骨盤臓器脱に有効な)腹腔鏡下仙骨腟固定術が学会の推奨する診療ガイドライン(指針)に収載されました。腹腔鏡下仙骨腟固定術は内視鏡の一つである腹腔鏡の観察下で、骨盤支持組織をメッシュで吊り上げる手術です。開腹手術と比較し、術後疼痛が軽く、早期離床による早期日常復帰が期待できます。世界的、全国的にもこの術式は普及しており、安全性や有効性や再発が少ないことが示されております。
手術概要
・全身麻酔下でお腹に5-12mmの程度の傷を4箇所設けます。
・腹腔内に炭酸ガスを注入します。
・腹腔鏡で骨盤内を観察し通常は子宮の一部と両側付属器(卵巣と卵管)を切除します。
(子宮や卵巣温存を希望する患者さんにはその適応を十分に検討し対応します。)
・膀胱と腟の境界、直腸と腟の境界を開放しそれぞれにメッシュという医療用の人工物を留置します。
このメッシュの下端を腟と子宮に縫合糸で固定します。
・メッシュの上端を仙骨の前面にある靭帯まで引き上げ、下端と同様の方法で固定します。
・骨盤内にメッシュが腹腔内に露出しないように腹膜を覆います。
・切除した子宮や付属器を臍から取り出します。
・創を閉じて終了です。
手術は癒着の程度や子宮の大きさによって変わりますが、およそ2−3時間です。通常、手術翌日から食事や歩行を開始します。術後3日目に膀胱に留置したカテーテルを抜去し、尿意があることや残尿(=排尿後、膀胱に残った尿量)が基準内であることを確認し、術後4日目の退院となります。
1 多発子宮筋腫合併の骨盤臓器脱 2 子宮の上部を切除したところ
3 切除した子宮断端の縫合 4 肛門挙筋を露出する
5 腟壁と膀胱の境界を露出したところ 6 肛門挙筋にメッシュを固定する
7 腟壁にもう一枚のメッシュ固定する 8 前後2枚のメッシュを合わせ固定する
9 メッシュを腹膜のトンネルに通す 10 メッシュの上端を仙骨の靱帯に固定
11 メッシュを腹膜で覆い終了
練馬総合病院 産婦人科