膀胱がん ~痛みのない血尿に要注意~
膀胱がん
~痛みのない血尿に要注意~
泌尿器科医師 福本 桂資郎
トイレに行って、おしっこが真っ赤だった場合、皆さんはどうするでしょうか?おそらく、大多数の方はびっくりして泌尿器科を受診されるかと思います。
それでは、血尿に加え、排尿時痛・頻尿などの症状がある場合とない場合、どちらのほうが重大な病気が隠れている可能性が高いでしょうか?結論から言うと、症状がない血尿のほうが要注意です。血尿に加え、排尿時痛がある場合は、膀胱炎や前立腺炎、尿道炎などの尿路感染症が原因かもしれません。また、血尿に加え背中が痛い場合、尿路結石が原因かもしれません。一方、まったく症状ないのに血尿が出る場合、膀胱がんの可能性があります。この場合の血尿は自然に治ったり、血尿が出たりをくり返すので、自然に治ったからといって安心してはいけません。
膀胱がんが発見されると、まずは内視鏡的な治療を行います(経尿道的膀胱腫瘍切除術)。麻酔をかけて行うので痛みもなく、お腹を切るわけではないので傷も残りません。入院も一週間程度ですみます。ところが、膀胱がんは非常に再発しやすく、治療時の腫瘍の深さ(図参照)により、その後の治療方針が変わってきます。
膀胱内の腫瘍の数が一つであり、腫瘍の浸潤が比較的浅い場合(Ta)、定期的な経過観察で問題ありません。一方、腫瘍の数が多い場合や、腫瘍が粘膜の下の層まで浸潤している場合(T1)、治療の後に膀胱の中に薬を注入する追加治療が必要になります。さらに、腫瘍が深くまで浸潤し、筋層まで到達している場合(T2)、膀胱を手術で摘除する治療が必要になります。特に悩ましいのは腫瘍が粘膜の下の層まで浸潤している(T1)場合です。約半数が再発し、さらに1-2割の患者さんが筋層浸潤(T2)に至るため、このT1の中でさらにリスクが高い人を見つけ出すことが重要になります。
私は数年前から、この臨床的に重要なポイントを研究しており、大腸がんで使われる危険因子(Tumor Budding)が膀胱がんにおいても重要であることを発見しました。この事は泌尿器科学会でも高い評価を受け(総会賞受賞)、本年7月にシンガポールで開かれるアジア泌尿器科学会でも報告を行う予定です。私の研究が膀胱がん治療を受ける患者さんの一助となれば、ただただうれしい限りです。
膀胱がんは、血尿をきたすことが多く、多くの方は早期に発見されることが多いです。一方、血尿以外の症状がなく、その血尿も自然に治ることがあるため、患者さんによっては泌尿器科を受診せず、発見が遅れてしまうことがあります。また、喫煙は膀胱がんになる可能性が高く、この点も注意が必要です。
真っ赤なおしっこが出たけれども、ほかに症状がないから様子を見ている方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度泌尿器科外来受診を御検討ください(受診時はあらかじめ予約することをお勧めします)。