練馬総合病院

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アニサキス症

~アニサキス症~

内視鏡センター長 栗原直人

皆さんは、サバやイカなどを生食後に激しい胃痛を自覚されたことはありますか?今回はアニサキス症についてのお話です。

アニサキス症は回虫という寄生虫の仲間です。成虫はクジラやイルカの胃に寄生しています。幼虫はサバ、アジ、イワシやイカなどに寄生しているため、これらを生食すると、生きたアニサキスの幼虫が胃や腸の中で壁に潜り込んで症状を引き起こします。サバなどの内蔵表面や筋肉内をよく観察すると2~3cmの幼虫が、とぐろを巻いていたり身をくねらせて動いているのがわかることがあります。これまでに世界中でアニサキス症の報告は累計約2万件みとめられています。そのうち90%以上は日本からの報告です。日本人の刺身をたべる食習慣が起因しています。日本国内の推定患者数は年間2千人以上であるといわれています。

1962年オランダで激しい腹痛のため開腹による胃部分切除術が行われ、切除した胃組織中にアニサキス虫体がみとめられたことから、アニサキス症の原因が特定されました。日本最初の報告は1964年です。1970年代以降には内視鏡検査が普及し、アニサキス虫体の摘出が可能となりました。

アニサキスの幼虫は熱に弱く、加熱することで死滅させることができます。(70℃では瞬間的に、60℃では一分間程度で死滅します。)また低温には強く、-20℃で24時間以上冷凍しないと死滅しません。

酢には抵抗性であり、シメサバのように食酢で処理しても死なないので注意が必要です。

これらの食材を食べ、数時間後に激しい腹痛が認められた場合、当院内視鏡センターにご相談ください。問診から本疾患を疑い、上部消化管内視鏡検査で確定診断することが多く、治療としては上部消化管内視鏡で虫体の摘出をおこないます。

症状の発現が遅いときや、サバやイカなどの生食を食べた場合のアニサキス症の危険性について認識していないと診断が遅れる場合があります。腹痛で受診され、緊急腹部CT検査が診断契機となりアニサキスを診断した症例を練馬医学会で報告しました。胃粘膜下層の高度の浮腫は胃アニサキス症に特徴的な所見であり、腹部CTや腹部超音波検査でアニサキス症を疑い、緊急内視鏡検査で診断・治療をおこないました。アニサキス症の激しい痛みはアニサキスの虫体を除去すると速やかに改善すると考えられています。

これまでに当院内視鏡センターでは緊急内視鏡検査にてアニサキス症を診断、治療してきました。一度に3虫体もアニサキスがみとめられた症例もあります。

以下、自身の体験談です。昼に刺身定食でイカやサバなどをたべた後、夕方から上腹部痛がみとめられ、夜間は痛みがつよく胃薬が必要なほどでした。翌日、痛みが継続するため、もしやと考え、上部消化管内視鏡検査をしたところ、胃粘膜に長さ2㎝の白く細長いアニサキスが、頭を突き刺して活発に動いていました。周囲の粘膜は赤くただれ、浮腫がみとめられました。鉗子でアニサキスを除去し、生理食塩水に入れると、アニサキス虫体は活発にうごいていました。試験管のなかで数日間生きていましたので、かなり生命力が強いようです。胃の激しい痛みはすぐに改善しましたが、胃重感は数日間持続しました。読者の皆様に参考にしていただければ幸いです。

アニサキス症は寄生部位が胃であればすぐに治療可能ですが、腸であれば治療に難渋する場合があります。小腸から大腸までは4~6mと長く、上部消化管内視鏡検査では寄生部位の同定が困難であるためです。また、胃と比べると腸の壁は薄いため、腸管穿孔を起こし腹膜炎になる場合もあります。

一方、アニサキスに対するアレルギー反応をおこして、蕁麻疹様の皮疹が出現する場合もあります。サバアレルギーと考えられていた人が実際はアニサキスアレルギーであった報告もあります。

今回のコモンディジーズでは日本の食文化に関連しておこる『アニサキス症』を取り上げました。突然、激しい胃痛がある場合、食生活でアニサキス症の可能性があれば、なるべく早く外科、内科、内視鏡センターにご相談下さい。

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