研究所概要
当研究所では、糖尿病・消化器疾患に関する臨床研究をはじめ、病院情報システムの構築・業務フロー分析・医療安全・医療事故調査等多岐にわたる研究を実施しています。また、科学研究費補助金取扱規程第2条第1項第1号及び第4号並びに同条第4項の機関の指定を受けており、全日本病院協会、慶應義塾大学、東邦大学等の外部研究機関と連携し、情報・質・安全・教育等の分野の厚生労働省科学研究費研究事業も実施しています。
糖尿病では無症候性心不全の有病率が高いことは既に欧米で多数報告されています。しかし日本人での検証はほとんど無かったので早期の心不全患者の実態を調査した結果、日本人でも有病率が高いこととアルブミン尿の患者さんが早期心不全の指標となることが判り報告をしました(Diabetol Int. 2014)。
マグネシウム摂取不足が世界的な問題となっております。血清マグネシウム濃度が低いと糖尿病、心血管疾患に罹患しやすいことが知られています。そこで糖尿病性腎臓障害と血清マグネシウム濃度との関係を検証しました。血清マグネシウム濃度が低いと糖尿病性腎臓病が悪化しやすいことが判り報告いたしました(Diabetol Int. 2021)。マグネシウムの多い食品摂取を勧めるひとつの根拠になります。
2014年より市販されているSGLT2阻害剤は心臓病発症を抑制させ、また血清マグネシウム濃度を上昇させます。一般的に血清マグネシウム濃度が高いと心臓病発症抑制させることが知られています。そこでSGLT2阻害剤による心臓病発症抑制効果は血清マグネシウム濃度上昇に起因するという仮説を提唱しました(J Clin Med Res 2017)。仮説が正しいとするとSGLT2阻害剤による血清マグネシウム濃度上昇の機序が重要ですがほとんど検討されていません。専門的な内容になりますので詳細は割愛しますが、CTで測定した内臓脂肪量の減少と血清マグネシウム濃度上昇と関連したことを報告しました(J Endocrinol Metab. 2021)。
さらに、行政よりデータの提供をうけ、当研究所所属研究者により、区立保育園60施設通園中の乳幼児0-6歳児約6500名を対象に身長・体重を計測し(2008年~2013年4月)、データ解析を実施し論文として発表しました(Journal of Pediatric Endocrinology and Metabolism 2020)。それまで練馬区に在住する乳幼児の系統的成長評価は行われていませんでしたが、その成長特性を分析することができました。練馬区の6万人超の特定健診データの提供を受け、糖尿病発症に関連する要因を見出し学会発表し(人間ドック学会2018)、練馬区のHPに掲載されています。
練馬区国民健康保険の特定健診等データの提供結果について
また、品質管理や工学等他分野の研究者と連携し、人工呼吸器を用いた医療介護におけるインシデントリスクを故障の木解析(FTA:Fault Tree Analysis)FTAにより分析して、リスクを評価する研究にも取り組み、国際学会で発表しました(Asia Pacific Symposium on Safety,2017)。
その他ICTを用いた研究にも積極的に参画し、2015年には公立大学法人奈良県立医科大学を中心とした「地域横断的な医療介護情報のICT化により、世界最先端の臨床研究基盤等の構築を加速するための研究」に参加しました。当財団は、ひたちなか総合病院・新潟南病院と共に本研究のうち看護業務(看護師の病棟内動線)の可視化に協力し、病棟に赤外線センサを設置し、一定期間病棟看護師が名札型赤外線センサを着用して業務にあたりました。本研究で取得した病棟職員の動線や業務時間・場所等のデータを組み合わせて、病棟看護師業務の可視化と分析・導入に当たっての課題整理に貢献しました。
公益財団法人として、これらの研究成果を出版し、医療界のみならず広く社会に還元することにも積極的に取り組んでいます。